2001年夏の白化現象
2001年7月から9月にかけて、琉球列島周辺で水温の上昇が起こり、1998年夏に引き続 いてサンゴの白化現象が観察されました。日本サンゴ礁学会は、 環境省国際サンゴ礁・モニタリングセンターと共同で2001年のサンゴの白化の状況をまとめ、プレス発表をおこないました。さらに、水温観測結果と白化の状況に関して衛星によって水温観測をおこなっている米国海洋大気局(NOAA)と、観測された水温と今年の白化状況に関するとりまとめがおこなわれました。
日本サンゴ礁学会白化問題特別委員会委員長の土屋誠教授(琉球大学)は今回の白化に対して、 どのような対策を講ずるべきかという議論を早急に始めなければならないとのコメン トを発表しました。2001年11月2日から4日にかけておこなわれた第4回日本サンゴ礁学会で は、土屋教授の呼びかけで白化問題特別セッションが開催されました。そこでは、ま ず今年の白化のとりまとめを中心となっておこなった木村匡さん(環境省国際サンゴ 礁研究・モニタリングセンター,海中公園センター)が今年の白化の概況を説明し、 それに対して、白化の現状を把握するものとしてサンゴ観察ネットワーク作りの必要 性が活発に議論されました。さらに、白化の兆候を検知するものとして、白化を引き 起こす大きな要因と考えられている水温の観測ネットワークの構築の必要性、リモー トセンシングを用いた白化のマッピングおよび白化からの回復過程のモニタリングの 重要性も議論されました。第4回日本サンゴ礁学会では白化の機構解明を目的とした 発表も数多く見られ、白化への今後の対策を期待させるものとなりました。
(日本サンゴ礁学会ニュースレターより一部転載)
今回の白化に対する日本サンゴ礁学会からのコメント
日本サンゴ礁学会白化特別委員会委員長
土屋 誠
琉球列島のサンゴ礁では再び規模が大きい白化現象が見られている(国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター参照)。1998年に世界的な規模でサンゴ礁で白化が起こり、大きな議論が展開されたときからまだ3年しか経過していない。ようやく新しいサンゴの定着が確認され始めたものの、回復の兆しはとても十分とは言えないところへの追い打ちである。
1.なにが問題なのか?
白化現象は1980年以降に頻繁に起こるようになり、地球環境の変化が原因である可能性が高いと考えられている(Glynn, 1993; Brown, 1997;, HOegh-Guldberg, 1999)。1998年に起きた世界規模での白化現象は、サンゴたちが「地球の環境がおかしくなっている」と人間に対して警告を伝えてきた(土屋, 1999)。時をおかずして再びこのような現象が見られたということは、人間の施策のなさにいらだちをおぼえているのだろうか?
白化したサンゴの繁殖活動に異常が生じていることが報告されている(Hirose and Hidaka, 2000)。2回連続して白化したサンゴ群体は多いが、私は10年ほど前、2年連続して白化したミドリイシの仲間が3年目に死亡しているのを目撃したことがある。特に水温が高い状況でもなかったので「なぜ?」と不思議に思った記憶があるが、今考えると白化したことにより何らかの異常が生じていたのかもしれない。前回に引き続き白化したサンゴが多いという事実は、サンゴ礁の将来に暗雲が立ちこめていることを示唆している。
地球環境の変化に対するサンゴの適応が間に合わなければサンゴは死亡し、サンゴ礁が壊滅的な攪乱を受けることは間違いない。サンゴ礁は、漁場としての機能、多種多様な生物を共存させる機能、環境浄化の場としての機能、防災機能、美しい景観が有する機能、教育研究の場としての機能、さらに地球環境変動の指標としての機能、など多様な機能を有している(土屋ら, 1999)。サンゴ礁が大きな攪乱を受けることはこれらの機能が減少あるいは消滅することを意味している。
2.何をしなければならないか?
多くの研究者が前回の大規模な白化現象が観察されて以来、継続して研究をしている、あるいは関心を抱いているので、今回は詳細な情報の収集が可能であろう。また前回との比較が可能となっている。白化に強い種とそうでない種の存在、あるいは白化に至る詳細な過程、などが私の耳にも入ってきている。
沖縄以外の状況は?世界の情報は?現在私が入手している情報は限られている。環境省、財団法人亜熱帯研究所などが中心となり情報収集が始まっている。それらを解析し、生かすのが私たちの役目である。モニタリングの重要性もここにある。自然界に起きている変化を早急に察知し、必要であれば対策を講じなければならない。
確かにこれは極めて規模が大きな野外実験と言える。科学者の関心は大いに高まった。これはサンゴ礁科学の大きな発展につながるであろう。しかしながらそれが地球環境の変化、あるいはサンゴ礁の危機に結びつくものであれば、どのような対策を講ずるべきかという議論を早急に始めなければならない。科学的な研究はその対策にも大きな力を発揮するはずである。
私たちにとって何ができるかは、それぞれの立場によって異なるが、この現象が意味することを理解し、学問研究の発展とサンゴ礁、地球環境保全のための活発な議論・活動が実行されることが期待される。
3.引用文献
Brown, B.E. (1997) Coral bleaching: causes and consequences. Coral Reefs, 16 Suppl, S129-S138.
Glynn, P.W. (1993) Coral reef bleaching: ecological perspectives. Coral Reefs, 12, 1-17.
Hirose and Hidaka (1999) Reduced reproductive success in scleractinian corals that survived the 1998 bleaching in Okinawa. Galaxea, JCRS, 2, 17-21.
Hoegh-Guldberg, O. (1999) Climate change, coral bleaching and the future of the world’s coral reefs. Marine and Freshwater Research, 50, 839-866.
土屋 誠(1999) サンゴ礁からの警告-最大規模の白化現象は何を意味するか-.日本サンゴ礁学会誌,1,27-29.
土屋 誠,屋比久壮実,植田正恵(1999) サンゴ礁は異常事態-保全のキーワードはバランス-.沖縄マリン出版