2014/03/062013年夏のサンゴの白化現象について(総括)
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2014年3月6日
2013年夏のサンゴの白化現象について(総括)
日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会
今夏、沖縄各地のサンゴ礁の浅瀬で造礁サンゴ(以下サンゴ)の地域レベル での規模の大きな白化現象が観察された。本委員会では、この状況の把握に努 め今後の参考に資するために本総括を公開する。
「サンゴの白化現象とは」
サンゴは褐色の単細胞藻類(褐虫藻)と共生し栄養供給を受けていて、白化 現象とは褐虫藻が失われ透明になった組織を通して石灰質の骨格が白く透けて 見える現象を言う。異常な水温・光等の環境ストレスによる障害の一つで、障 害が長期に及び栄養状態の悪化したサンゴは衰弱する。ストレスがなくなれば 組織内に残った褐虫藻が増殖しサンゴは回復するが、障害の程度により回復に は一ヶ月以上かかり、衰弱が著しい場合は死亡する。
「過去の大規模な白化現象とその後のサンゴ礁」
1998 年の世界規模の白化現象は、エルニーニョ現象に関連して発生した巨大 な暖水塊(ホットスポット)が暖流沿いに移動して、各地のサンゴ礁全体に甚 大なサンゴの死亡を引き起こした。その後も世界各地で地域規模の白化現象が 頻発しており、沖縄周辺では 2001・2003・2007 年に規模の大きな白化現象が 観察された。
沖縄島では近年になってサンゴ礁斜面上部の一部浅瀬で、サンゴ礁で優占する ミドリイシ類を中心としたサンゴ群集の回復が見られるようになったが、多くの礁斜面や礁池では未だに回復を見ない。
「2013 年夏の白化現象」
今年の白化現象の観測地は、付表の通りである。今年、沖縄で見られた白化 は地域規模での海水温上昇が引き起こしている。今年は7月中旬から8月下旬 にかけて、強い太平洋高気圧の張り出しを一因として日本各地が猛暑や豪雨に 見舞われた。沖縄ではこの高気圧の影響で海水温が上昇し、気象庁は 8 月 16 日 に沖縄近海の表面水温の異常高温について情報を出した。沖縄の海岸沿いに広 がる遠浅のサンゴ礁内の浅瀬(礁池)では外海との海水交換が緩やかで水温が 上昇しやすい上、台風の波浪のない平穏な海面から差し込む亜熱帯の強烈な陽 光が、浅瀬のサンゴの白化を相乗的に促進したようだ。白化の被害はミドリイ シ類で顕著であり、一部の礁池では白化からの回復を見ずに群体が死亡したり その一部を失い傷つくミドリイシが観察された。礁池や礁斜面の深場でのミド リイシ類を始めとしたサンゴの回復はまだ途上にあり、このような場所の幼生 の供給源となる浅瀬で今後もこのような現象が頻発すると回復の遅れが心配さ れる。
「今後への提言」
情報の迅速な公開と共有:
通常のモニタリングの結果の解析と公表には時間がかかり、広域で進行中の現 象の各地での観測態勢の整備に充分に資することが出来ないことは、従来より 指摘されてきた。今回は既存のデータベースである「日本全国みんなでつくる サンゴマップ」の利用を呼びかけることで、関心を喚起し現象の初期から市民 レベルからも多くの観察者の動員を可能とし、観測態勢の向上に寄与できたと 思われる。今後は、このような目的での活用を視野に入れたデータベースの改 良・開発が期待される。
モニタリングとモデリングの統合:
一見ばらばらに見える今年の異常気象は、気象要因が世界的に連なる遠隔相関 (teleconnection)の一環であるとされる。これにより、断片的な白化の被害情 報も地球規模での気象情報との関連も含めた広範に及ぶ解析による予報を目指 すことも期待され、このような結果を様々な保全策と組み合わせた計画的サン ゴ礁保全へ適応的に活用することが期待されている。現在運用されている市民 参加型データベースの一つである「日本全国みんなでつくるサンゴマップ」も さらなる改良を行うことで解析精度の向上が期待できる。今後はモニタリング 情報の集積を行いつつ改良を続け、このようなデータベースの整備により予測 モデルの構築を支援することが求められる。
サンゴ礁のレジリアンスと適応的技術開発:
加えて、流出土砂及び流入栄養塩等の陸域負荷への対策・オニヒトデ等のサン ゴの捕食生物やテルピオスのような競争生物への対策により、サンゴ群集本来 の回復能力(resilience)の回復増進を図るとともに、今後の気候変動の進行に 適応するため、移植に用いるサンゴの選抜や品種改良も視野に入れたサンゴ群 集再生支援技術の開発など、個別の要素技術の検討と実践が求められる。
要素技術の統合と適応的対応:
個々の対策の最大効率を考慮した実施計画の策定には、予測モデルからの予報 情報をどのように保全の全体計画に還元するかが重要である。このためには最 適モデル構築に適したモニタリングのあり方をも検討する必要があり、双方向 のフィードバック体制が整備され、いつどのような規模・方法で行われた個別 の対策がどのような成果を得たかも、予測モデルとの整合性について検討が行 われる必要があり、このような評価体制の整備が期待される。
別添資料: 2013 年白化状況(みんなでつくるサンゴマップ実行委員会提供)