2007年夏の白化現象
2007年夏の高水温による白化現象について
取りまとめ:2008年2月、環境省・国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター 自然保護官補佐 佐藤 崇範 氏(2008年3月、日本サンゴ礁学会 保全委員会・自然環境研究センター 木村 匡 委員 改訂)
2007夏期のサンゴ白化について:日本国内の概況
2007年は年平均気温が全国的に高く、特に夏期の高温は顕著であったことが気象庁より報告されています。また、衛星データなどからも、夏期の海面水温が平年値を上回る日が多かったことが確認されました。これらの傾向と同調するように2007年夏期には、日本各地でサンゴの白化が確認されました。
日本国内のサンゴの白化は、7月上旬以降に沖縄本島周辺海域で顕著でした。各地の気象や海況、局所的な地形等環境の違いによって程度の差はあるものの、7月下旬に八重山周辺で現れた白化現象は、8月上旬には宮古島で、8月中旬には鹿児島県薩摩半島周辺、8月下旬には長崎県壱岐・対馬や和歌山県串本、9月上旬には高知県柏島周辺へと、琉球列島から日本列島を北上していきました。その後、海水温が低下するとともに白化は収束しましたが、高水温の程度や種の白化に対する耐性によって、回復するサンゴ群体もあれば、死滅したものもあったようです。
国内全域での白化の影響評価は行われていませんが、八重山海域の石西礁湖で実施された調査(環境省サンゴ白化緊急調査)結果によると、石西礁湖周辺では全調査地点で白化が観察されました。9月~10月の台風により破砕したものを考慮しても、低く見積もっても30%以上のサンゴ群体が、2007年の高水温による白化の影響で死亡したと考えられました。
全体として2007年夏期のサンゴ白化を評価すると、白化が広い範囲でみられたこと、高水温に比較的強いと考えられているサンゴの種でも白化がみられたこと、また一部では白化の程度も高かったことなどから、1998年の世界的な大規模白化以降、日本各地のサンゴ礁に最も深刻なダメージを与えたと考えられます。
日本国内の白化状況の経過
琉球列島周辺海域:
沖縄島周辺や慶良間諸島、宮古島周辺ではわずかにサンゴの白化が見られた程度ですが、石西礁湖周辺の八重山海域では大規模な白化が観察されました。
八重山周辺海域:
7月下旬~8月上旬にかけて晴天が続き、気温、水温ともに上昇。これと同調するように、サンゴの白化目撃情報が多数寄せられ、8月中には石西礁湖内や西表島周辺海域など八重山周辺海域のほぼ全域にわたりサンゴの白化が確認された。今回の白化の特徴は、これまで白化し易いといわれているもの(トゲサンゴなどのハナヤサイサンゴ科やミドリイシ属の群体)だけでなく、白化耐性が比較的高いと考えられているサンゴ類(キクメイシ科やハマサンゴ属の群体、アオサンゴ)の白化が報告されたこと等。9月以降には、白化していたハマサンゴ類などの回復がみられた一方、ミドリイシ類やハナヤサイサンゴ類では死亡も多く確認された。
宮古島周辺海域:
7月上旬にサンゴの白化が確認されたが、白化の程度は場所により差があり、伊良部島周辺や下地島周辺の調査海域では、サンゴ白化はほとんどみられなかった。
沖縄本島周辺:
7月上旬~中旬にかけてサンゴの白化が複数の海域で確認された。8月以降では、白化によって死亡したと思われる群体も確認。白化の程度は場所による差が大きく、ほとんど白化がみられなかった海域(慶良間諸島のいくつかの海域など)もあった。
琉球列島北部(沖縄本島以北):
報告が少なく、全体の状況を評価することは難しいが、7月下旬の時点で屋久島では白化はみられず、9月下旬には与論島でほとんど白化はみられない、といった報告が寄せられた。
琉球列島以北:
7月下旬以降の琉球列島以北では、局所的に白化が散見された程度と思われます。
徳島県竹ヶ島:
7月下旬にミドリイシ類でごくわずかの白化
高知県柏島:
8月下旬には確認されず、9月上旬にサンゴの白化を確認
東京都八丈島:
ミドリイシ類などがごく少数白化していたものの、ほとんどのサンゴは健全
鹿児島湾内や薩摩半島西岸の複数の海域:
8月中旬にサンゴの白化が確認
伊豆半島の伊東周辺海域:
サンゴの白化はほとんどみられず
和歌山県串本周辺海域:
8月下旬以降、顕著な白化が確認された
長崎県壱岐、対馬、五島列島周辺海域:
8月下旬にサンゴの白化が確認され、白化による死亡群体も見られた
神奈川県荒崎海岸:
サンゴの白化は確認されていない
小笠原諸島父島・母島周辺海域:
9月上旬までに白化は確認されていない
なお、サンゴ白化に関する各海域の目撃情報の多くは、「環境省 国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター」のサンゴ被害目撃情報募集、八重山サンゴ礁保全協議会メーリングリスト、海辺フォーラムメーリングリスト、日本サンゴ礁学会メーリングリストに寄せられた情報および新聞報道や関連機関のニュースレター等をもとにしました。これらの情報の概要については、2007年11月に行われた第10回日本サンゴ礁学会大会で山野らにより発表されています。
海外の状況
2007年夏期の世界各地(主に北半球)のサンゴ白化に関しては、国際的なメーリングリスト・「coral-list」において情報交換がなされており、またNOAAによる「Coral Reef Watch Program」によって衛星を用いたリモートセンシングと現地調査のデータが取りまとめられ公開されています(http://coralreefwatch.noaa.gov/)。
北半球での夏期高水温によるサンゴの白化について、最初に”Coral-list”で報告がなされたのは、7月の第2週、カリブ海のバハマからの軽度で部分的なサンゴの白化でした。また7月第3週には米国・フロリダキーからも軽度の白化が報告されました。太平洋側では、台湾南端の墾丁国立公園(Kenting National Park)で7月中旬から白化が確認され、下旬には重度の白化がみられるようになりました。また、8月上旬には、サイパン島でもサンゴ白化の兆しが観察されました。
さらに、8月下旬からはペルシャ湾北部で重度の白化が報告され始め、9月下旬には湾南部のドバイ周辺でも白化が観察されました(湾南部は7月には白化はみられなかった)。これら各海域のサンゴの白化の影響は、今後報告されることと思われます。
なお、南半球の夏期におけるサンゴ白化については、これまでのところ、”Coral‐list“での報告はなされていません。また、NOAAによる「Coral Reef Watch Program」のウェブサイトでは、衛星から観測された各海域の水温の状況から、複数の観測ステーションで”白化監視レベル(Bleaching Watch)“に達しているとする情報が度々報告されていますが、その上位レベルに当たる”白化警戒レベル(Bleaching Alert)“に達したとする報告は、現在までのところなされていません。
追記:2008年3月に入ってから「Fiji-Beqa」に”Bleaching Warning”が出されています。